恋を知らないきみへ

「営業側としては、どちらが案内しやすい?」

部長に尋ねられ、資料から顔を上げる。
室内の視線が自分に集まったのが分かり、気が引き締まった。

「最初の案の方が、何を売りにしているブランドなのかは伝わりやすいと思います」

「やっぱりそうだよな」

「……ただ、パンフレットを手に取るお客様って、家事を減らしたいだけじゃない気もするんです」


私が付け足した言葉に、すぐさま広報担当者が反応してこちらを見る。

「といいますと?」

「家事を減らした先で、何がしたいのかは人によって違うので。家族と過ごしたい人もいれば、一人でゆっくりしたい人もいるし、早く寝たい人もいると思うんです」

話しながら、頭の中にこれまで接客してきたお客様の顔を浮かべる。

「──だから、“家族の時間を増やす”まで決めてしまうと、少し狭く感じる人もいるかもしれません」

「……なるほどね」

部長がイスにもたれて腕を組み、目を細めて二つのコピーを見比べた。

「じゃあ、“家事を減らすことで時間が生まれる”、くらいまでにしておいた方がいいのかな」

「はい。その方が、お客様がそれぞれ自分の暮らしに置き換えやすいと思います」


言い終えてからなんとなく前の席へ視線を向けると、木ノ下くんはスクリーンを見たあと、手元の資料に何かを書き込んでいる。

以前の彼なら、ここで言葉を足してくれた。

私の話をブランドの方向性として整理して、他の部署にも分かる形にしてくれた。