恋を知らないきみへ

侑樹さんは笑おうとしていたんだと思う。けれど、いつものようには笑えていなかった。

それが、余計に私も苦しい。


「ほのかと付き合えて、楽しかったよ」

その言葉に、胸が締めつけられる。


私は、楽しくなかったわけじゃない。

侑樹さんとの時間が、全部嘘だったわけじゃない。

一緒に食事をしたこと。
出かけたこと。
笑ったこと。
仕事の話をしたこと。

家で過ごした週末。

どれもちゃんと覚えている。


「私も、楽しかった」

今度は、“ちゃんと”を付けなかった。

侑樹さんは一瞬驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。

「……そっか」

「うん」

「それならよかった」


───本当に終わるんだ。

その実感が、少しずつ胸の中へ広がっていく。


「じゃあ、俺こっちだから」

侑樹さんが駅とは反対の方向を指さす。

「ほのかは?帰れる?」

最後の最後まで、侑樹さんは侑樹さんらしく気遣ってくれる。

優しいところがどこまでも変わらなくて、切なくなりながらもうなずいた。


「うん。大丈夫」

「そっか」

彼は数歩、先に歩き出した。

その背中を見送ろうとした時、不意に足を止めた侑樹さんが振り返る。