恋を知らないきみへ

侑樹さんは申し訳なさそうに目を伏せて笑った。

「でも、ほのかは嫌だって言ってたよな」

「……うん」

間違ってはいないので、小さくうなずく。

鮮明に思い出される金曜日のラウンジでの出来事。
自分が思うよりもずっと気にしていたことなんだと思い知らされる。


ポケットに手を突っ込んだまま、彼は行き交う車のライトに目を細めた。

「最近、ほのかが俺のこと見てない気がしててさ」

「そ、そんなこと」

「いや、見てなかったよ」

否定しようとした言葉を、静かに遮られる。

「だから、焦ったんだと思う。ほのかは俺の彼女だって自分を安心させたくて、確認したかったのかもしれない」


その言葉を聞いて、責める気持ちは一切湧かなかった。

ただ、悲しかった。

侑樹さんも、ずっと不安だったのだ。
私はその不安に気づかず、いつも通り笑っていた。

そういう気持ちのすれ違いやズレに気づくまでに、こんなに時間がかかるなんて。


「嫌がってるほのかに一方的にキスしたのは、俺が悪かった。……ごめんな」

「……うん」

私も彼も、どちらを責めるでも、どちらが悪いと決めるでもない。そういう話はしていない。

でも、もう答えは出ているような会話だった。
仲直りするでもなく、この先の二人の未来を話すでもなく、お互いに隠していた“しこり”を出すみたいな会話。


二人の間を、人の波が通り過ぎていく。

誰も私たちを気にしていない。

こんなに大きな話をしているのに、駅前は何も変わらなかった。


侑樹さんはしばらく黙ったあと、ゆっくりと私を見た。

「……ほのか。……もう、やめようか」

意味が分からないふりをすることはできなかった。
それでも、返事をするまで少し時間がかかってしまう。

「……うん、そうだね」