恋を知らないきみへ

「あの、最後に一つだけお聞きしてもいいですか?」

「はい」

「どうして家を建てようと思われたんですか?」


ご主人と奥様は顔を見合わせる。
二人とも、そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったんだと思う。

先に答えたのは奥様だった。

「息子が走り回れる家が欲しかったんです。アパートだと、下の階が気になっちゃって」

「僕は賃貸の更新ですね」

ご主人は苦笑いを浮かべる。

「更新のタイミングなら、思い切って買うのもありかなって」


───なるほど。

同じ家族でも、“家を持とう”と思い始めるきっかけは全然違う。


私は小さくうなずいて、二人の意見をメモに書き込んだ。

『母:子どもがのびのび暮らせる家』

『父:賃貸更新がきっかけ』


数字では見えない理由。
こういう声を、私は集めていきたい。


営業の仕事は最後の最後まで丁寧に。
それは、先輩たちに最初に叩き込まれたことだった。

わざわざ展示場まで足を運んでくださったお客様のお見送りだ。


ずーっと私のそばを離れなかった男の子が、飛び跳ねるようにして手を振る。

「おねえちゃん、ばいばーい!またくるね!」

……かわいい。

思わず顔が綻んで、緩んだ表情で手を振り返した。

「楽しめたかな?いつかまた来てね、ばいばい」


すると、奥様がふと少し立ち止まって振り返る。

「あの……」

「はい」

「少し家で話し合ってくるので……、また、こちらで相談させてもらってもいいですか?」

そう言ってもらえるということは、多数あるハウスメーカーの中でも気になってくれたということだ。

嬉しさで笑顔がこぼれる。

「はい。もちろんです」

「できれば、次も小関さんにお願いしたいです。来る時に連絡してもいいですか?」

奥様も、手を繋いでいる男の子も私に向かって微笑んでいる。

……ああ、頑張ってよかった。


私は少し笑って、うなずいた。

「ありがとうございます。ぜひ、お待ちしています。」





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