恋を知らないきみへ

「そういえばさ、」

侑樹さんが、テーブルに肘をつきながら口を開いた。

「今週末、どうする?」

「今週末?」

「ほら、前に水族館行きたいって言ってたじゃん。混んでるかもしれないけど、今だけのイベントもやってるみたいだし」

「ああ……うん」

たしかに、言った気がする。

いつだっただろう。
新しくできた展示をテレビで見て、行ってみたいと話した。

侑樹さんはそれを覚えてくれていた。


「土曜なら俺、休み取れそうなんだよね。ほのかは?」

「うーん……。もしかしたら仕事、入るかもしれない」

「まだ分かんない?」

「うん。たぶん」


本当は、土曜日に仕事が入る予定なんて今のところなかった。
ただ、行きたいとも、行きたくないとも思えなかった。

楽しみなはずの予定が、頭の中に浮かんでこない。


侑樹さんは手にしていたビールのグラスを、テーブルに静かに置いた。

「じゃあ、仕事なかったら行く?」

「……うん」

「ほんとに?」

「え?」

「行きたい?」

聞き返されて、すぐに答えられなかった。

戸惑う私と、どこか確認するみたいに何度も聞いてくる彼。
テーブルを挟んで、いつもとは違う空気が流れそうになった。

そのわずかな間を埋めるように、店員が「お待たせしました」と料理を運んでくる。

さっき頼んだ生ハムとチーズのサラダ。