恋を知らないきみへ

打ち合わせは予定より少し長引いた。

最後に次回の日程を確認し、ご夫婦を展示場の入口まで見送る。


営業車へ戻ると、先輩が疲れたようにふっと息をついた。

「今日も助かったよ」

運転席から笑いかけられる。

「小関さんがメモ取ってくれると、本当に抜けがないんだよね」

「これだけが特技みたいなものです。ありがとうございます」

「設計にもそのまま伝えられるから助かる」


その言葉に小さく微笑んで、頭を下げる。


……本当なら、嬉しい。
営業として信頼されることは、何より励みになる。

それなのに今日は、どうしてなのか。その喜びが胸の奥まで届かなかった。


会社へ戻ってからは、すぐに商談内容をまとめ始める。

変更点を整理し、次回までに対応が必要な先方の希望を書き出し、関係部署へ共有する内容を入力していく。


指はちゃんと止まらない。

いつも通りの速さでキーボードを打ち、いつも通りに仕事を片付けていく。


今日の商談も問題なく終わった。
大きなミスはない。

───それでも。

胸の奥だけが、朝からずっと落ち着かないままだった。




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