恋を知らないきみへ

昼休みが終わると、営業部は再び慌ただしさを取り戻した。

「小関さん、十三時半出発だから準備お願い」

課長の声に「はい」と返事をして、デスクの上に広げていた書類を手早くまとめる。


今日訪問するのは、二回目の打ち合わせを控えたお客様だ。

前回の要望を反映した間取り図と概算見積書、住宅設備のカタログ、土地資料。
忘れ物がないようにひとつずつ確認し、クリアファイルへ順番どおりに収めていく。


営業車に乗り込むと、男性の先輩がエアコンの風量を上げながら苦笑した。

「今日も暑いなぁ」

「ほんとですね」

苦笑いしながら助手席のシートベルトを締める。


車が会社を出ると、真夏の強い日差しがフロントガラスいっぱいに広がった。
じりじりと窓から差し込む光で肌が焼ける。


目的地までは三十分ほど。

その間に、頭の中で今日の打ち合わせの流れをもう一度整理していた。


前回の論点になっていた収納計画。
リビングの広さ。
奥様が気にしていた家事動線。
ご主人が希望していた書斎スペース。

質問が出そうなポイントを思い浮かべながら、資料を軽く見直した。

営業としてやるべきことは、身体が覚えている。


展示場へ到着すると、お客様はすでに応接スペースで待っていた。

「お待たせしました。本日はよろしくお願いいたします」


笑顔で挨拶を交わし、席に着く。

早速先輩が間取り図を広げると、ご夫婦が興味深げに身を乗り出した。

「あ。ここ、少し変わったんですね」

「はい。前回お伺いしたご希望をもとに、こちらを変更しております」

図面を指しながら説明する先輩の横で、私はお客様の反応を見逃さないようメモを取る。

「キッチンから洗面所まで、もう少し近いと嬉しいかもしれないです」

「収納はもう少し欲しいなぁ」

そのひとつひとつを書き留め、図面の余白へ付箋を貼っていった。