恋を知らないきみへ

「……ほのか?」

桃果の声で我に返った。

「え?」

「もうー、聞いてる?」

「あっ……、ごめん」

桃果が笑いながら大きな口で唐揚げを頬張って、もぐもぐしながら箸を向けてくる。

「今日のほのか、だいぶ上の空だよ?大丈夫?」

「そんなことないよ、大丈夫」

くすくす笑いながら、桃果は続けた。

「なーんか、ほのか元気ないよ。話も半分くらいしか聞いてないっしょ?」

「ちゃんと聞いてるよ」

「ほんとにー?」

桃果は少し首をかしげて、疑うように目を細める。

全部を見透かされそうな気がして、視線から逃げるみたいになんとなくどんぶりにまだ残っているうどんを箸ですくった。


「……なんかあった?」

その問いに、思わず箸が止まる。

「仕事のこと?」

「……ううん」

「体調悪い?」

「……それも違う」


答えながらも、自分でも何が違うのか分からない。

分からないまま、もう一度だけ視線が食堂の奥へ向いた。


木ノ下くんは手元にある大盛りのご飯をかき込んでいる。
そして、隣の同僚が何か話すたびに小さく笑って相づちを打っている。

昨日の私には向けてくれなかった表情だった。


……見ないで。

そう思うのに。


一度くらい、こっちを見てほしい。

そんなことを考えてしまった自分に、胸が小さくざわついた。




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