恋を知らないきみへ

営業部の朝は、待ってくれない。

自分のデスクに着いた瞬間から、一日の仕事はもう始まっていた。


席に着くなり、課長から声をかけられた。

「小関さん、おはよう。昨日お願いした見積り届いてる?」

「おはようございます。すぐに確認します」

返事をしながらパソコンを立ち上げる。

メールを開いて、取引先から届いた返信をチェックし、添付された資料を手早く保存する。

電話が鳴れば受話器を取って要件を聞き、担当へ取り次ぐ。

その間にもチャットの通知が立て続けに画面へ表示される。


【午前中の打ち合わせ、資料一部修正お願いします】

【先方から日程変更の連絡です】

【小関さん、この件確認できますか?】

頭の中で整理しながら、それぞれに返信を打っていく。
遠回りをしない、無駄のないルートを探しながら。


マウスはつねに動かし続ける。

頭を使う仕事ばかりなのに、不思議と手だけは勝手に動いてくれた。


だからこそ、余計に。

ほんの少しでも手が止まると、昨日のことが入り込んでくる。

『避けてるよ』

冷たい目をして、そう言われた。
もうどのくらいの間、笑い合えてないだろう。