恋を知らないきみへ

「マーケ側──木ノ下くんはどう思う?」

部長が名指しで尋ねたことで、ようやく彼が顔を上げる。

けれど、その視線はスクリーンに向いたままだった。


「今のコピーでも、コンセプトからは外れてないと思います」

一瞬、その言葉の意味を受け止められなかった。


「『家事を減らす』は直接的ですけど、その分、なんのブランドなのかは伝わりやすいので。最初の広告なら、分かりやすさを優先してもいいんじゃないですか」

「……そうだよなあ」

部長が悩ましげに腕を組んで、右手に持ったボールペンの先を、何度か机にコンコンと当てる。

「小関さんは、もう少し感情に寄せたい。木ノ下くんは、最初は分かりやすく伝えたいってことか」

「はい」

私がなにか言うより先に、木ノ下くんが返事をした。


思わず、あまりにも潔く言い切ったその横顔を見る。

今までも意見が違ったことなんて、いくらでもある。
むしろ最初の頃は、同じ意見になることの方が少なかった。

……それでも最近は、私が言葉に迷えば木ノ下くんが拾ってくれた。

木ノ下くんがブランドの理想を話せば、私は実際のお客様にどう届くかを考えた。


どちらかが正しいんじゃなくて、二人の意見を合わせたところに答えがある。

そう思えるようになっていた。

だから、今も何か続くような気がして、少しだけ待ってしまった。


でも木ノ下くんは、それ以上の言葉は何も言わなかった。

そして、私の視線に気づいているのかいないのか、こちらを見もしない。

───どうして。