恋を知らないきみへ

前に置いた資料へなんとなく視線を落とす。

会議は止まっていない。

むしろ、いつもより順調なくらいだった。


「では、次は広報からお願いします」

スクリーンに、ブランドサイトとパンフレットのラフ案が映し出される。

白を基調としたページに、家族が朝食を取っている写真。

その上に、大きくコピーが入っていた。


『家事を減らして、家族の時間を増やす家』


「前回の話を受けて、設備の紹介よりも生活の変化が伝わる方向に修正しました」

広報担当の女性が資料を見ながら説明する。

「ただ、分かりやすさを優先すると、どうしても少し直接的になるんですよね。営業目線ではどうですか?」

話を振られて、私は画面を見つめた。

「意味はすごく伝わりやすいと思います。ただ……」

「ただ?」

「“家事を減らす”って言い切ると、少しだけ楽をするための家みたいに聞こえる気もします」


広報担当者が、神妙な面持ちで映し出されたコピーを見上げる。

「……そうですね、たしかに」

「家事を減らしたいというより、本当は家事に追われたくないんじゃないかなって。“家族の時間を増やす”、はすごくいいと思うんですけど、その前をもう少し柔らかくできたら」

「と、いいますと?例えば?」

「そうですね……」


すぐには、うまい言葉が出てこない。


……木ノ下くんなら、どう言うだろう。

そう思った瞬間、自分でも驚くほど自然に視線が向いた。まるで癖みたいに。


木ノ下くんは手元の資料を見ていて、こちらを見てはいない。