恋を知らないきみへ

私の話を受けて、設計部の担当者が図面へ目を落とす。

「なるほど。じゃあ、固定しない方がいいということですね」

「はい。たぶんお客様が欲しいのは、立派なランドリールームじゃなくて、洗濯物がリビングに積み上がらない毎日なんです」

そこまで口にして、無意識に木ノ下くんを見た。


きっと、なにかもっといい言葉を続けてくれる。そんなふうに思った。

いつもなら、ここで木ノ下くんが私の言葉を拾う。


設備そのものを売るんじゃない。

その先にある暮らしを見せる。

これまで何度も、二人で繰り返してきた話だった。

私の言葉だけでは曖昧な部分を、木ノ下くんがブランドの方向性として整理する。

そうすれば、設計部も広報も、何を形にすればいいのか分かる。


───だけど。

「可動式のカウンターにすることはできますか?」

木ノ下くんは私を見ることなく、設計部へ尋ねた。

「あ、はい。市販品を置く前提で寸法を取るなら可能です」

「じゃあ、その方向で一案作ってください」

「分かりました」


そのまま話が進んでいってしまった。

私はいつもの流れにならなかったことに驚いて、開きかけていた口を閉じた。


……あれ?と思ったのは一瞬のこと。
すぐに考えを改める。


今のは、木ノ下くんが言葉を足すような場面じゃなかったのかもしれない。

設計としてどう対応できるか、すぐに確認した方が早い。
そういうことなんだと思う。