恋を知らないきみへ

「それじゃあ、始めようか」

営業部長の声で、会議室の空気が切り替わる。

「前回、それぞれ持ち帰ってもらった内容があると思うので、今日は修正案の確認から進めます。まず設計からお願いします」

スクリーンに、一階部分の間取りが映し出された。

前回の会議で議論になった、玄関から洗面所、ランドリールームへ続く生活動線。


設計部の担当者が、赤く印を付けた箇所を示す。

「前回、小関さんからいただいた意見を踏まえて、帰宅後の動線を見直しました。玄関からファミリークローゼットを通って、洗面所へ直接入れる形です」

画面が切り替わり、修正前と修正後の図面が並んだ。

「ただ、ファミリークローゼットを広げた分、ランドリールームが少し狭くなっています。室内干しのスペースを確保すると、作業台を標準で入れるのは難しいかもしれません」

「商品企画としては?」

部長に聞かれ、担当者が価格表を確認する。

「作業台を造作にすると、どうしてもコストが上がります。全体の販売価格を考えるなら、標準ではカウンターだけにして、収納部分はオプションにするのが現実的です」

「営業はどう思う?」


部長の視線がこちらへ向いたので、私は図面を見ながら考えた。

「作業台そのものより、洗濯物を畳んだり、アイロンをかけたりする場所があることの方が大事だと思います」

「うん」

「でも、それだけなら必ずしも造作収納じゃなくてもいいですよね。広さを削って設備を増やすより、あとからお客様が自分に合った収納を置ける余白を残した方が、使いやすいかもしれません」