恋を知らないきみへ

目が合った。

……そう思ったのに、木ノ下くんの視線は、私の顔をかすめるように通り過ぎた。


「木ノ下、今日の資料、説明できるようにしといて」

課長が前方の席を示す。

「はい」

木ノ下くんは短く返事をして、課長の隣のイスを引いた。私の隣の席を見ることもなく。


置いたままになっている資料を見下ろす。

……そっか。

今日はマーケティング部から説明する項目も多い。
課長の近くに座った方が、話しやすいに決まっている。


そもそも、会議の席なんて決められていない。

これまで隣に座っていたのだって、たまたまそうなっていただけだ。


私は隣の机に置いていた資料を手元へ引き寄せたものの、一度に持ちきれずに紙の端が机に引っかかる。
慌てて揃え直した時、向かい側に座っていた広報担当の女性と目が合った。

「資料、多いですね」

「あ……、はい。前の分も持ってきちゃって」

笑ってごまかしながら、まとめた資料を自分の前に置く。
広いはずの机の上が、急に狭くなったような気がした。