恋を知らないきみへ

どう考えても、仕事は時間内に終わりそうになかった。

悩んだ末、来週に回せるものを整理して、今日中に終わらせる仕事だけを選び取ることにした。

時間を決められた約束があると思うと、気持ちが落ち着かない。


……最近は、あんまり侑樹さんとゆっくり過ごせてない。
たぶん彼自身もそれを分かっているから、週末は二人の時間を作りたいんだと思う。


ようやくひと段落した書類作成をダブルチェックし、保存したあと、パソコンの電源を落として蓋を閉じる。

オフィスの時計は、十八時半を指す寸前だった。

急いでデスクを整理して、まだ残っている近くの先輩女性に声をかける。


「すみません、お先に失礼します」

「あれ、今日は急いでるの?」

私がわたわたとバッグに物を詰め込んでいる姿を見て、先輩がふっと笑う。

「……はい。ちょっと約束があって」

「そっか、お疲れ様ね」

「お疲れ様でした」


急ぎ足で営業部のフロアを出ると、退勤する人たちの波は過ぎ去ったのか、わりと廊下は静かだった。

残業する社員たちの低い話し声や、ちょっとした笑い声なんかが響いてくる。

エレベーターホールに向かいながらスマホを見ると、侑樹さんからメッセージが入っていた。


『一階のラウンジにいるね』

──やばい、待たせちゃってる。