恋を知らないきみへ

私はその背中を眺めながら、昨日の夜の電車を降りた彼の背中と重ね合わせる。

気がついたら、そのまま立ち上がっていた。


「小関さん?」

男性の一人が、不思議そうに首をかしげてこちらを見ている。

ほとんど同じような顔で、山岡さんも少し驚いた顔で立ち上がった私を見上げた。

「どうしたんですか?」

「あ……えっと」

なんて返せばいいのか、どうして立ち上がったのか、自分でも分からないまま食べかけのトレイを手に持つ。

「──ごめん。急ぎの仕事、思い出しちゃった。山岡さんはこのまま食べて」

「えっ!大丈夫ですか?手伝います?」

「平気平気。確認取るだけだから」


……よくもまあ、自分でも感心してしまうほど適当な言い訳が口をつく。

本当のところ、よく知りもしない他部署の男性たちとお昼を共にするのがちょっと居心地が悪いと思っていた。

落ち着いて食べられないし、気が休まらない。

でも、それをこの二人の前で言うことなんてできないし、それ以前に山岡さんはそんなに嫌そうではない。


「じゃあ、私はこれで」

イスを戻していると、男性たちが残念そうに手を振る。

「せっかく相席できたのにー」

「また見かけたら声かけてもいいっすか?」

一瞬だけ答えに詰まりながらも、営業スマイルを彼らに向ける。

「……私、普段はあんまり社食でご飯は食べないので、分かりません。──すみませんが、失礼しますね」


意図が伝わったかどうかは分からないけれど、最低限の線引きをしたつもりだった。

「またねー」と笑っているみんなに会釈して、まだ半分以上ランチが残っている山岡さんを残して、私はトレイを返しに返却口へ向かった。