恋を知らないきみへ

ようやく一息つけた頃には、時計の針は十時半を回っていた。

さっきラウンジの自販機で買った冷たい缶コーヒーを飲みながら、小さく肩を回す。

「ふぅ……」

自然にため息が漏れた。今日は金曜日だ。

今日を頑張れば、やっと休みだ。
そう思うだけで、少し気持ちが軽くなる。


デスクへ戻ると、置きっぱなしにしていたスマホが小さく震えた。

画面には、『千崎 侑樹』の文字。


……仕事中にメッセージが来るなんて珍しいな。
すぐに画面に指を滑らせて内容を確認する。


『今日、駅前のイタリアン予約した。
十九時からだから、十八時半くらいに会社出られそう?
最近忙しかったし、美味しいもの食べよう』

───本当に彼は、気遣いの人だ。
改めて実感して、自然と笑みがこぼれた。

『了解。楽しみにしてるね』

送信すると、すぐに既読がつく。

『仕事、無理しすぎないようにね』

その一文に、胸がふっと温かくなった。


「よし。やらなきゃ」

スマホを伏せて、気持ちを切り替えると再びパソコンへ向き直る。


今日は十八時半には会社を出る。
だから、それまでに終わらせなければならない仕事を頭の中で順番に並べていく。

今朝確認したスケジュールの中に、今日だけで追加になったものが何件もある。

商品企画部へ確認したい案件が一件。
別件で、販促資料の修正。

午後は客先との打ち合わせも入った。


忙しい一日になりそうだ。

そんなことを考えながら、私は再びキーボードを叩き始めた。




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