恋を知らないきみへ

金曜日の朝は、いつもより少しだけ身体が重かった。


寝不足というほどではない。
それなのに、電車に揺られていると、昨夜のことが何度も頭をよぎる。

恵比寿で降りていく木ノ下くん。

「じゃあね」

そう言って笑った顔。

……酔うとあんなふうにすんなり笑うんだな。
思い出したところで、自分に苦笑する。


なに考えてるんだろ、私。

小さく息をついて、スマホをバッグにしまった。


会社へ着く頃には、いつもの営業モードに切り替わっていた。

メールを開けば、取引先からの問い合わせが何件も届いている。

急ぎの見積もり依頼。
来週の商談資料の修正。
今日のスケジュールを組んでいく。

朝礼が終わると同時に、営業部は一気に慌ただしくなった。


「小関さん。この資料作成、すぐお願いできる?」

「はい、すぐやります」

コピー機とデスクを何度も往復しながら、電話対応をこなす。
並行して見積書も作成していく。

飛び込みで頼まれる仕事もやりつつ、スケジュールを確認して、自分のタスクをひとつずつ潰していった。