恋を知らないきみへ

「好きになるもなにも。私は木ノ下くんに何度も仕事でぶん殴られてますよ」

たまには人前で言い負かしてやろう、と隣にいる彼を軽く睨むと、また木ノ下くんが大笑いする。

「ははは、いや、ぶん殴ってはない」

「ねぇ、木ノ下くんて笑い上戸?」

「俺、ぶん殴ってはないよ?ね?」

「酔っ払ってるの?」

「ほらー。小関さんこうやって人の話聞かないから」


……話が通じなくなってきたな。

私がマーケ部の人たちの顔を見やると、何度も何度も首を縦に振っている。

───意外すぎる。
木ノ下くんはお酒が入ると、笑い上戸になるらしい。


「木ノ下も三年くらい彼女いないよなー」

男性が木ノ下くんの肩を抱くようにガシッとつかむと、「いや!」と彼は力強く訂正する。

「惜しい!二年です!」

「あ、じゃあー、彼女にするなら、可愛い系?綺麗系?」

「どっちも捨てがたい!」

「だよなぁ」


私のそばにいた先輩女性が枝豆をつまんで口に運びながら、悩ましげに眉を寄せる。

「木ノ下くんも仕事に傾きすぎなければ、悪くないと思うんだけどなー。どう思う?小関さん」

「……どうなんですかね」

そう言って、ちらっと木ノ下くんを見た。


彼はもう、男性にしなだれかかって笑いながらハイボールを飲んでいた。
当然のごとく、顔は真っ赤。

……お酒が入れば、あんなに笑うんだ。

私の疲れ切った姿を見て大笑いしていた彼と、今の彼は同じ顔をしている。

仕事中には絶対見せない、力の抜けた笑顔。


そんな顔を見られたことが、なんだか少しだけ得をした気分だった。




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