恋を知らないきみへ

今回の新ブランドの立ち上げで、初めて話す人たちもたくさんいる。

そんな中でもこうして和やかにやっていけるのは、こうして自然に会話できる空気が、部署の違う私たちを少しずつ近づけてくれているんだなと思った。

ここまで大きな案件は緊張もするけど、成し遂げた時に感じる達成感はこれまでにないものになりそうな予感がした。


追加で頼んだお酒が届いて飲み始めた頃、隣に座っている木ノ下くんの座り方がちょっと猫背になったことに気がついた。

顔は赤いままで、そしてさっきと違うのがちょっと口元が緩んでいること。

「木ノ下さぁ、しばらく小関さんと仕事してたじゃん?」

先輩のひとりがビールを飲みながら木ノ下くんに話しかける。

「小関さんがこれだけ感じよかったら、好きになったりしなかった?」

レモンサワーをむせそうになってしまい、私は否定したいのに咳が出てしまって何も言えない。

そんな私の背中を、先輩女性が慌てたようにさすってくれる。


木ノ下くんはそんな質問にはまったく動じることなく、むしろどこで笑うことがあったのか「あははは」と笑い飛ばした。

「小関さん、彼氏いるんで」

短いけれど、正面から飛んできたごく自然な言葉。

……そうだよね。
何気なく言われた答えを、私はレモンサワーで飲み込んだ。


「そこは真面目かよ〜。まあ、普通はそうだよなぁ」

「ですねー。そこは」

いい感じに話がまとまりそうで、私はほっと息をついた。