恋を知らないきみへ

居酒屋に着いた頃には、すでに何人かが席についていて、あちこちから「お疲れ様です」と声が飛び交っていた。

広い座敷に長いテーブルが二列並び、それぞれ思い思いの場所へ座っていく。


私は営業部長に「小関さん、こっちこっち!」と手招きされ、その隣へ腰を下ろした。

向かいには広報部の女性社員と設計部の男性社員。

木ノ下くんは少し離れたところで、マーケ部の人たちと座っている。


「今日は堅苦しい話は抜き!」

営業部長がジョッキを持ち上げて笑う。

「ブランドはここからが本番だ。部署の垣根を越えて、いい家を作っていこう!乾杯ー!」


一斉にジョッキが鳴り合う。

ビール、日本酒、ハイボール、ウーロン茶。
それぞれ違う飲み物なのに、乾杯の音だけは不思議と同じだった。

乾杯から十分もしないうちに、席は少しずつ入り乱れ始めた。


「小関さん。この前話してた収納の話なんだけどさ、」

設計部の男性が料理を取り分けながら話しかけてくる。

「玄関収納、もうちょっと広く取れるかもしれない」

「あ、本当ですか?」

「ただコストが上がるから、そこをどう説明するかなんだよね」

私はうなずきながらサラダを口へ運ぶ。

「収納が増えるっていう説明より、玄関が散らからない暮らしを想像してもらえた方がお客様は納得しやすいかもしれません」

「あー、なるほどねぇ」

「すごい!営業ってそう考えるんだ」

広報部の女性も興味深そうにメモを取る真似をして笑った。

「小関さんとは、ただ話してるだけでコピー浮かびそう」

「そんな大したこと言ってないですよ」

反応に困って苦笑いをしていると、「いやいや、それが営業の強みなんだよ」なんて言いながら、今度は商品企画の人まで会話へ入ってくる。

気付けば四、五人が同じ話題で盛り上がっていた。