恋を知らないきみへ

「……同期会なんて、特にやったことは──」

「ない」

気持ちいいほど、木ノ下くんは即答だった。

私もたぶんほとんど同じ顔をしていたと思う。苦笑しながら首を振った。

「今まで一度もないです」

「え、マジで?」

今度は設計部の人まで会話に入ってくる。

「こんなに連携取れてるのに?」

「前に話したかもしれないんですけど、今回のプロジェクトで初めてちゃんと話したくらいなんですよ」

そう答えると、「意外だなぁ」と、周囲から次々に声が上がった。

……最初なんて、口論ばっかりだった記憶しかない。


「なんか昔から一緒に仕事してる感じするよね」

「分かる分かる」

「同期って聞いて納得したけど、それでも飲みに行ったことないのはびっくりだわ」

他部署の人たちに口々にそんなことを言われていると、営業部長が笑いながら近づいてきた。

「だったらちょうどいいじゃないか」

その場にいた全員が部長を見る。

「ブランドもようやく本格的に動き始めたことだし、決起会でもやらないか?」

部長のその提案に、周りのみんなが、ぱっと笑顔になった。

「おっ!」

「いいですね!」

「賛成賛成!」

一気に会議室が賑やかになる。

「いつならみんな空いてる?」

「なんなら今日でも大丈夫です!」

「私も行けます!」

「広報もたぶん全員いけます!俺、近くでどこか居酒屋予約しておきます!」


次々と返事が返ってくる中、私は隣を見た。

木ノ下くんはというと、少しだけ困ったような顔をしながらも、小さくため息をついていた。

「……木ノ下くんってお酒飲めるの?」

「そりゃ飲めるよ。大人数で飲むのは好きじゃないけど。……でも、断れる空気じゃないでしょ」

その返事がおかしくて、「たしかに」と思わず吹き出してしまう。


私たちがそんな会話をしているとも知らず、部長が楽しそうに笑った。

「よし、決まりだな。店は広報に頼むから、みんな今夜は予定空けといてくれよ!」

「「「はーい!」」」

元気な返事があちこちから響く。


ブランドが動き出した。

そして今度は、仕事を離れた場所で初めてみんなが同じテーブルを囲むことになる。

───それが、このあとあんな夜になるなんて。

この時の私は、まだ何も知らなかった。




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