恋を知らないきみへ

そこまで話すと、隣にいた木ノ下くんが自然と続けた。

「広報も、設備紹介じゃなく生活の流れを見せた方がいいと思います。収納率何パーセントより、『探し物をしない暮らし』の方が伝わります」

「そうそう!それだ!」

思わず声が弾む。

「うん。だからそこは同じ認識」

彼は落ち着いた声で同意してくれている。

ただの短いやり取り。
なのに、何人かが一斉にこちらを見ていた。


「そういうことか、分かりました」

設計部の係長が納得したように笑う。

「その説明なら、設計もイメージしやすいです。じゃあ、次回までにその方向で図面を修正します」

「広報もコピー考え直します」


さっきまで止まりかけていた議論が、また動き始める。

誰かが考えを出して、それを誰かが受け取って、さらに別の誰かが広げていく。

そんなやり取りを何度も繰り返しながら、二時間近く続いた会議はようやく終わりを迎えた。


「じゃあ今日はここまでにしましょうか」

この会議を取りまとめていた部長の言葉で、一斉に椅子が引かれる。

資料をまとめながら「お疲れさまでした」と声が飛び交い、それぞれが自分の部署へ戻ろうと立ち上がる。


私もファイルを抱えて席を立つと、広報部の若い男性社員が笑いながら声をかけてきた。

「そういえば、小関さんと木ノ下くんって同期なんですよね?」

「あ、はい」

「僕、他部署の同期ともよくメシ行くんですけど、そっちはどうなんですか?」

隣でタブレットを片付けていた木ノ下くんも、ちらっと顔を上げる。
眉を寄せて、ものすごく不思議そうな顔をしていた。

そんな彼には気づかない様子で、広報部の男性が続ける。

「同期会とかしないんですか?」

「え?」

あまりに自然な質問で、一瞬意味が分からなかった。
思わず木ノ下くんと顔を見合わせる。