恋を知らないきみへ

なにも言い返さないでいると、木ノ下くんはたいして気にも留めないように軽く笑うのだった。

「彼女だったら、そのくらい普通に見せてほしいけど」

何気なく言っただけなんだろうけど、どこかそれは私の胸の奥に刺さったまま。


「小関さん、オンになった?」

二人で歩きながら、さっきの私の居眠り姿を思い出しているのか木ノ下くんは口元が綻んでいる。

「オンだよ!私はずっとオン!」

「強制シャットダウンしてたくせに」

「もういいから忘れてよー……」

バッグを肩にかけ直して、持っていた紙袋で顔を覆う。

「ねぇ、顔になんもついてない?」

「ついてないよ」

「ほんとに?ちゃんと見て」


無意識に顔を近づけたものの、木ノ下くんは分かりやすく後ずさりするみたいに距離を取って私から目を逸らした。

「広報から問い合わせが来ててさ。営業目線どうなのか聞きたいことがあって」

「───急にめっちゃ仕事に戻るじゃん」

「まだ就業時間内だからね」

「さっきまで超笑ってたくせに」

「そっちなんて寝てたくせに」

「やめて……」