恋を知らないきみへ

「木ノ下くん!どんだけ笑ってんの!」

まだ立ち上がれない様子で笑い続けている彼に文句を言うと、木ノ下くんは声にならない声で手だけ振る。

その仕草さえ、今の私には腹立たしい。

「ちょっと!覗き見禁止だよ!?」

「いや、寝顔じゃなくて、起きた瞬間の声が……」

笑いの合間にやっと彼の声が聞こえた。

「熱中症とかで倒れてんのかと思って慌てて窓叩いたら、めっちゃ疲れた顔で寝てて」

もはや目尻に涙まで溜まっている。

失礼極まりない。極まりないけど、こんなところで完全に気を抜いていた私が悪いのも分かっている。


「小関さんも、ちゃんと電池切れるんだね」

「なにそれ!当たり前でしょ!」

「だっていつも“完璧な小関さん”じゃん」

「そんなわけないでしょ?もー、最悪!こんなの家族以外の誰にも見せたことないのに!」


急いで髪の毛を結び直して、ブラウスも整えて。
荷物を抱えて車からちゃんと降りる。

木ノ下くんはまだ笑いをこらえきれない様子で私を見ている。
もうその視線がつらい。

「家族以外って、彼氏は?」

「見せてないよ!」

「え?なんで?」

率直すぎる問いに、言葉が出てこない。
改めて理由を聞かれると、答えに詰まる。

侑樹さんはきっと、“ちゃんとしてる私”が好きなわけで。
綺麗に整えてる私のことが好きなんだと思う。