恋を知らないきみへ

───散々ぶつかった。
確かにその通りだ。

お互いの意見を否定して、腹を立てて。
何度も話し直して、少しずつ相手の考え方を知った。

最初から息が合っていたわけじゃない。
ここまで来て、やっと合うようになったのだ。

それはきっと、最初から相性が良かったと言われるより、ずっと嬉しいことなのかもしれない。


一通り意見が出揃ったところで、営業部長が資料を閉じた。

「では、今日のところはここまでにしましょう」

全員の視線が前方へ集まる。

「コンセプトについては、この方向で進めます。設計部は生活パターンごとの基本プラン、商品企画部は価格と仕様の整理。広報部はターゲットへの伝え方を検討してください」


各部署の担当者がうなずく。

「営業とマーケには、引き続き全体の軸を見てもらいます」


その言葉に、私は自然と隣を見た。

私の視線に気づいた木ノ下くんもこちらを見て、小さくうなずく。

「ここからは、二人が作った土台を全員で育てていきます。ただし、広げるうちに軸がずれそうになった時は、遠慮なく止めてください」

営業部長が楽しげに笑う。

「最初にこのブランドの意味を考え抜いたのは、君たち二人だから」


胸の奥が、なんだかじんわりと熱くなった。

二人だけではなくなる。
それでも、私たちの役目が終わったわけじゃない。

むしろ、ここからなのだ。


会議が終わり、椅子を引く音や資料を片付ける音が一斉に響き始める。

立ち上がったところで、先ほど質問をした設計部の社員がこちらへやってきた。


「小関さん、さっきの契約のお客様の話、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

「はい、もちろんです」

「木ノ下くんも、生活パターンの資料、あとで共有してもらえます?」

「分かりました」


それぞれに声をかけられ、自然と別々の方向を向く。

昨日までは、会議が終われば木ノ下くんと二人で続きを話していた。

けれど今日は違う。


彼は商品企画の担当者に呼び止められ、私は設計部の社員に質問を受けている。

人が増えた。
関わる仕事も、話す相手も増えた。

ほんの少し前まで、毎日のように二人で向かい合っていた小会議室Bが、急に遠い場所になったような気がする。


設計部の社員へ説明しながら、なんとなく木ノ下くんのいる方へ目を向ける。

商品企画部の課長から質問を受ける木ノ下くんは、私と向かい合っていた時とは違う顔をしていた。
当然なのに、少しだけ遠く見えた。

彼はもう別の資料を広げ、真剣な顔で話し込んでいる。


その姿を見て、少しだけ安心する。
そして同時に、ほんの少し物足りないと思ってしまった。


……昨日まで、あんなに一緒にいたからだ。

きっと、それだけ。

自分にそう言い聞かせるように、私は設計部の社員へ向き直った。




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