恋を知らないきみへ

「価格帯はどのくらいで考えていますか?」

会議室の空気が少し引き締まった。

どれほど良いコンセプトでも、価格が現実から離れれば商品にはならない。

「家事動線を整えたり、収納を増やしたりすれば、当然コストは上がります。若年層向けなのに、手が届かない価格になったら意味がないですよね」

「はい。その通りだと思います」

木ノ下くんは課長の意見を認めながらも、ちゃんと次の答えを用意していた。

「だからこそ、標準仕様を増やすのではなく、選択肢を整理する必要があります」

「選択肢を減らす?」

「減らすというより、暮らし方によって組み合わせる形です」


彼が手元のパソコンを操作すると、いくつかの生活パターンがスクリーンに表示された。


共働き夫婦。
小さな子どもがいる家庭。
在宅勤務が多い家庭。
趣味の時間を重視する家庭。


「全員に同じ設備を付けるのではなく、暮らし方ごとに必要な機能をまとめます。お客様が一から選ぶ負担も減らせますし、設計や施工も一定の型を作れます」

「というと、セミオーダーに近い形?」

「イメージとしては近いです。ただ、設備を選ぶのではなく、生活の悩みから選んでもらいます」


そこで私は営業現場でのことを思い出して顔を上げた。

「それ、営業としても説明しやすいと思います」

木ノ下くんとやり取りしていた商品企画部の課長が、今度はこちらを見る。


「お客様に“どの設備が欲しいですか?”と聞くと、知識がない方ほど迷ってしまうんです。でも、“朝の支度が大変ですか”とか、“洗濯物はいつ畳みますか”と聞けば、普段の生活から答えてもらえます」

「……そうか。選ぶ入口を設備から生活に変えるわけですね」

「はい」

「それなら、商品名やプラン名も生活ベースで考えた方がよさそうですね」

会議室のあちこちで、ペンが資料を走る音がした。