恋を知らないきみへ

一瞬だけ会議室が静かになる。

設計部の隣に座っていた広報担当の女性が微笑んだ。

「もしかしてお二人、かなり打ち合わせしました?」

「……しました」

素直に答えると、木ノ下くんも隣でうなずく。

私たちの反応を見て、女性が面白そうな表情で吹き出していた。

「なんか、質問への返し方まで息が合ってますね」

「営業とマーケだから、最初は全然合わなかったけどね」

営業部長が楽しそうに口を挟む。
それと同時に会議室に小さな笑いが起きた。

空気がふわっとほどけた。


「……最初はかなり揉めました」

私が認めると、木ノ下くんも平然と続ける。

「今も意見が同じとは限りません」

「はい。でも、相手がなにを言いたいかは分かるようになった気はします」

何気なく口にしてから、遅れて自分に驚いた。


木ノ下くんが私の考えを理解できるようになっただけじゃない。
私も、彼がどこを気にして、なにを守ろうとしているのかが分かるようになっていた。

それは、たぶん最初の頃にはなかった感覚だ。


「いい関係ですね」

広報担当者がそう言って笑い、資料のページをめくった。

「ただ、広報目線で言うと、“暮らしを届ける”だけでは他社との差が伝わりにくいと思います。住宅会社はどこも、暮らしや家族を広告に使っていますから」

その指摘に、木ノ下くんが想定していたかのように反応する。

「おっしゃる通りです」

「では、広告で何を見せるつもりですか?家族がリビングで笑っている写真だけでは、正直埋もれます」