恋を知らないきみへ

説明が終わったところで、営業部長が会議室全体を見渡した。

「ここまでで、質問や意見はありますか?」

数秒の沈黙のあと、設計部の係長が手を上げた。

「考え方は分かりました。ただ、設計としては少し曖昧にも感じます」


───早速来た。
思わず姿勢を正す。

係長は資料を手にしたまま、私と木ノ下くんを見ている。

「“暮らしを支える”というのは、かなり広いですよね。動線を優先するのか、収納量を増やすのか。それとも可変性を重視するのか。すべてを盛り込むと、結局特徴のない商品になりませんか?」


もっともな意見だった。

暮らしを考えると言っても、すべてを詰め込めるわけじゃない。
土地の広さにも価格にも限度がある。


木ノ下くんが先に静かに口を開いた。

「すべての設備を増やすという考えではありません」

「では、何を基準に選ぶんですか?」

「お客様の行動を減らすかどうか、ではなく、考えなければならないことを減らせるかどうかです」

設計部の係長が、わずかに眉を上げる。

「考えなければならないこと?」

「はい。例えば洗濯動線が短くても、収納場所が別の階にあれば、結局その後の作業は残ります。設備を部分的に便利にするのではなく、一連の生活が途中で止まらないことを基準にしたいです」


私も隣から言葉を足した。

「営業としても、“この設備が便利です”だけだと、お客様によっては必要性を感じてもらえません。でも、“朝の身支度をしながら洗濯まで終わります”と生活の流れで説明すると、ご自身の暮らしを想像してもらいやすいです」

「……なるほど」

設計部の係長が資料へ何かを書き込む。

「設備の数ではなく、連続性を見るということですね」

「「そうです」」

私と木ノ下くんの返事が、ほとんど同時に重なった。