恋を知らないきみへ

そこで一度言葉を止め、こちらを見た。

……あ。
たぶん、ここからは私だ。

目が合っただけなのに、木ノ下くんがなにを求めているのかが分かった。


私は資料へ目を落とし、口を開いた。

「先日、私が担当しているお客様との契約前の打ち合わせでも、ランドリールームについて同じような話が出ました」

会議室中の視線が再び自分へ向く。

さっきまで緊張していたはずなのに、お客様と話した時のことを思い返すと、不思議と言葉が出てきた。

「そのご夫婦は、ランドリールームにスペースを使う必要があるのか、最後まで迷っていました。でも改めて、家を建てたいと思った理由をお聞きしたら、お子さんと自由に過ごせる家に住みたいとおっしゃったんです」

設計部の担当者が、資料へ視線を落としながら小さくうなずく。

「そのご夫婦にとって、ランドリールームは目的ではありませんでした。洗濯にかかる時間や移動を減らして、お子さんと過ごす余裕を作るための手段だったんです」

私は一度息を吸い、言葉を続けた。

「だから今回のブランドも、“便利な設備がそろっている家”として売り出すのでは足りないと思っています。その設備によって、毎日がどう変わるのか。そこまで伝える必要があるんじゃないかと考えました」


話し終えると、隣の木ノ下くんがすぐに引き継いだ。

「設備単体ではなく、それらがどうつながって暮らしを支えるのか。今回のブランドでは、そこを軸にしたいと考えています」