恋を知らないきみへ

「二人が出した結論を先に言うと、今回のブランドで届けたいのは、設備そのものではありません」

営業部長はそこで言葉を切り、私たちの方を見た。

「木ノ下くん、ここから説明をお願いできる?」

「はい」

木ノ下くんはすぐに立ち上がり、タブレットを操作してモニターへ次のページを映した。


『設備を売るのではなく、その先の暮らしを届ける』


昨日まで何度も目にしていたはずの言葉なのに、大きな画面に表示されると、まるで違うもののように見えた。

「今回の調査では、共働き世帯を中心に、家事動線や収納、育児環境などについて意見を集めました」

木ノ下くんが淡々と説明を始める。

声は落ち着いていて、必要以上に強調することもない。
それでも、どこを伝えたいのかがきちんと分かる話し方だった。

「もちろん、希望される設備や間取りは家庭ごとに違います。ただ、その理由を掘り下げていくと、共通していたのは“時間に追われず、気持ちに余裕を持って暮らしたい”という思いでした」


資料のページが変わる。
そこには、私たちが集めた意見がいくつか抜粋されていた。

『洗濯を一階だけで終わらせたい』

『子どもを見ながら料理がしたい』

『片付けに追われず、家族で過ごしたい』

『休日くらい、家事のことを考えたくない』


「例えば、“洗濯を一階で終わらせたい”という意見があります」

木ノ下くんが続ける。

「一見すると、ランドリールームや動線の話に見えます。でも本当に求めているのは、洗濯という作業を短くすることだけではありません」