恋を知らないきみへ

「緊張してる?」

「……ちょっとだけ」

「ちょっとに見えないけど」

「そっちは平気なの?」

「平気ではないけど、やるしかないでしょ」


いつも通りの返事だった。

それだけなのに、少しだけ肩の力が抜ける。

私たち二人だけで考えていた時も、彼はずっとそうだった。
焦っても答えが出るわけじゃないと分かっているみたいに、目の前にあるものをひとつずつ整理していく。

たぶん今日も同じだ。


そう思ったところで、営業部長が前方の席で立ち上がった。

「では、時間になりましたので始めましょう」

会議室内の話し声が止まり、一斉に視線が前へ集まる。

「今日は、来年度から本格展開を予定している若年層向け住宅ブランドについて、現段階での方向性を共有します」

営業部長がリモコンを操作すると、モニターの画面が切り替わった。

そこに映ったのは、私と木ノ下くんがまとめた市場調査の概要だった。


「この企画については、まず営業部の小関さんと、マーケティング部の木ノ下くんに、顧客調査とブランドの土台作りを担当してもらいました」

突然名前を呼ばれ、反射的に背筋を伸ばす。

視線が一斉にこちらへ向いた。

木ノ下くんは慣れた様子で軽く頭を下げている。
私も少し遅れて、同じように会釈した。