恋を知らないきみへ

今度こそ、迷わずにメモの余白へ大きく丸を書いた。

『暮らし』 『回る』
その二つの言葉を何度も見比べながら、私は余白へいくつもの候補を書き並べていく。

丁寧に書いたその文字の下へ、何本も線を引いた。

"ちゃんと回る"
"毎日が回る"
"暮らしが回る"

言葉を並べては消していく。


しばらくして、木ノ下くんが静かに『暮らし』と『回る』のあいだに、一本の線を引いた。

私はそれを見て、自然と笑っていた。


「……これだね」

「うん」

昨日まで、どれだけ考えても出なかった答え。それは、新しいアイデアじゃなかった。

お互いが別々の場所で見てきた景色が、同じ場所へたどり着いていただけだった。


静かにメモを閉じて、どこか満たされた気持ちで小さく伸びをした。

すると木ノ下くんもサッとメモを横に移すと、隣に置いていた袋を引き寄せた。

「……ごめん」

「え?」

「メシ食っていい?」

そう言ってコンビニの袋から取り出したのは、大盛りのミートソースパスタだった。ちゃんとプリンもついている。

このタイミングでそれを言われ、思わず吹き出す。

「ちょっと!今!?」

「ずっと腹減ってた」

「さっきまでめちゃくちゃいい空気だったのに!」

「だからちゃんとやったじゃん」

フォークを袋から出しながら、木ノ下くんは真顔で言う。

「終わったから」

「まあ、肝心の仕事は終わったしね。食べよっか」

「いただきます」

「……早っ」


こっちが笑ってしまうくらい、彼はさっさとパスタを口に運んでいた。
その姿がおかしくて、変な人だなと思いながら自分のおにぎりの袋を開けた。


私たちは、ほとんど同じタイミングで同じ場所へたどり着いていた。

届けたい言葉が、ようやく見つかった。
そして、届けたいものだけは、もう決まっていた。



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