恋を知らないきみへ

「……同じこと考えてた」

そう言った木ノ下くんは、いつもと違って少しだけ楽しそうだった。
その笑顔につられて、私まで笑ってしまう。

「なに、このシンクロ」

「今さらだけど、やっと意見が合った気がする」

「ほんとだよ」

まだ、私は笑いが止まらない。

あんなにぶつかり合っていたっていうのに。
ここに来てこんな展開が来るなんて思ってもみなかった。


木ノ下くんは自分のメモ帳を引き寄せたあと、私のメモと見比べて軽く息をついた。

「昨日まで違和感があった理由が、今日やっと分かった」

「違和感?」

「俺たち、ずっと手段の話してたよね」

何気なく言われた言葉に、胸の中へすとんと何かが落ちた。

「日々の生活、家事、育児、趣味。全部そう」

木ノ下くんはペン先で、自分のメモを軽く叩く。

「でも、お客さんは設備を買うんじゃない」

「……うん」

「その先の暮らしを買う」


思わず大きくうなずく。

そうだ。家を買う、家を建てるお客様は、“暮らし”を買うんだ。

だから最後、奥様は安心した顔で笑っていたんだ。

『すっきりしました』というあの言葉は、ランドリールームに納得したからじゃない。
その先の毎日が見えたからだ。


「じゃあ……」

私はペンを持ち直す。

「ブランドコンセプトって」

木ノ下くんも同じタイミングで口を開いた。

「届けたいものは決まった」

「うん。“暮らし”……」

「ようやく見えた。あとはそれを、どう言葉にするかだね」