恋を知らないきみへ

小会議室Bへ着くと、珍しく木ノ下くんはまだ来ていなかった。

誰もいないスペースのひとつに腰を下ろして、とりあえずペンとメモ帳を出す。
ついでに横に、ペットボトルの水とおにぎり一個を出しておいた。

窓から差し込む強烈な夏の日差しが、食欲を減退させてくる。


ふと会議室のドアが開く音がしてそちらに目をやると、木ノ下くんがコンビニの袋をぶら下げてこちらへ向かってくるところだった。

「あ、木ノ下くん。お疲れ様〜」

小さく手を上げて声をかけると、彼はすぐに駆け寄って向かい側へ座ってきた。

「お疲れ様。遅くなった」

「……残念。ちゃんと時間通り」

私が腕時計で確認すると、なんだか木ノ下くんが鼻で笑うような顔でタブレットとメモ帳を出す。

「俺も社会人だからね」

「いつも遅れて来てる私への嫌味?」

「営業が大変なのは今回のことでよく分かったよ」

「ほんとかなあ」

会って十数秒で言い合いながらも、もうなんだかこれにも慣れてきている。不思議な心地がした。


木ノ下くんはコンビニの袋を置いて、中身を出す前に私に向き直った。

「あのさ、小関さん」

「うん?」

「俺、思いついたんだよね」

「え?」

彼のことだからさっさとお昼ご飯を先に食べようとしているのかと思いきや、そんなことを言い出してきたのでこちらの手が止まる。


私も持っていたおにぎりをいったん置いて、メモ帳を開いた。

「待って待って。私も思いついてる!」

ちょっと驚いたみたいに木ノ下くんが目を丸くする。

二人で顔を見合わせた。
一瞬だけ沈黙して、それから同時に笑ってしまった。

「なんでこういう時に限ってかぶるの?」

「さあ、分かんない」