恋を知らないきみへ

「じゃあ、その気持ちは今も変わってないですか?」

「はい」

「大事なのはランドリールームじゃなくて、その先の暮らしを叶えられるかどうか、なのかなって思います。」

奥様が小さく「あ……」と声を漏らした。

「ランドリールームって、目的じゃなくて手段なんですよね」

二人とも静かに私を見る。

「お天気に関係なくランドリールームひとつで洗濯が終わるから、お子さんと遊ぶ時間が増える。慌てなくて済む。そういう毎日の積み重ねが、ご夫婦が欲しかった暮らしなんじゃないかなって、私は思いました」


しばらく応接室に静かな時間が流れる。
たぶん、ご夫婦それぞれが考えを巡らせている。

やがて、ご主人がゆっくりとうなずいた。

「……ほんとだ。そうですね」

隣にいた奥様も、納得したように笑う。

「なんか、ランドリールームってスペースもそれなりに取っちゃうし。必要なのかなってずーっと二人で話し合ってたんですけど。今の聞いたら、すっきりしました」


その笑顔を見て、私もようやく肩の力が抜けた。

お客様のそういう笑顔こそが、仕事を頑張れる原動力だったりする。


契約書にサインをもらい、丁寧に挨拶してお見送りまでして、応接室をあとにした。


ちょうど通りかかった営業部の先輩が、私を見つけて「小関」と声をかけてきた。

「どうだった?今の案件」

「無事に契約になりました」

「マジかー。ほんっと、小関ってすぐ契約取っちゃうよなあ」

それを聞いて、私は思わず苦笑する。

「たまたまだと思います。周りにもお客様にも恵まれてるだけです」

「入社してきた時は、“なんで押さないんだよ!”とか“今の押したら行けたぞ”とか言ってたよなぁ、俺」

「言われましたねー!」

新人の頃を思い出して微笑むと、先輩はぽりぽりと頬をかいて「でもさ、」と続けた。

「結局、小関が担当するお客様って必ず戻ってくるんだよな。そんでさ、“あの時にこう言ってもらったのが残りました”ってサクッと契約するんだよ」

「私、押すよりもお客様に決めてもらう方が好きなんです」

「それが一番難しい。……でも、小関はそれを無意識にやれる子だから売れるんだよ」

「そうなんですかね……」