恋を知らないきみへ

その日の夕方。

お昼休みと同じ小会議室Bに行くと、木ノ下くんはもう先に来ていた。

「お疲れ」

「お疲れ様」

昼休みと同じように向かい合って座る。


パソコンを開き、昼に書き留めたメモを広げると、二人とも自然と仕事モードへ切り替わっていた。

「じゃあ、昼の続きから」


木ノ下くんがメモを指先で軽く叩く。

『時間じゃなく、気持ち』

『余裕』

『暮らしが自然に回る』

昼休みに出てきた言葉たちをもう一度並べながら、今度はその先を探していく。


私も午後の仕事の合間になんとなく思いついた言葉をメモしてきたので、それを見ながら提案する。

「“暮らしが整う”は?」

「ちょっと固い……かな」

「じゃあ、“暮らしにゆとりを”」

「ありきたりじゃない?」

「……だよねー」


そう返されるような予感はしていたので、すぐ横に線を引く。

木ノ下くんも新しい言葉を書いては、首をかしげて「違うか」とつぶやいて消していく。


どちらかが話して、どちらかが否定する。
でもそれはもう、前みたいな言い合いじゃなかった。

「違う」
「惜しい」
「その方向は好き」

そんな言葉を何度も交わしながら、少しずつ輪郭だけが見えてくる。

答えはまだない。
それでも、確実に前へ進んでいる感覚だけはあった。


「……やっぱり、“洗濯が一階で終わる”は捨てたくない」

私がぽつりと言うと、木ノ下くんもそこはすぐにうなずく。

「俺も」

「でも、あれはコンセプトじゃないよね」

「うん。キャッチコピーっぽさがある」

「それだ!」

「でしょ?コンセプトってなると、その先にあるものを言いたい」