恋を知らないきみへ

そこまで聞いて、私はなんとなくつっかえていたものが少しだけほどけたような感覚になった。

「あ……、そっか」

もしかしたら、と思ったことを気がつけばそのまま口にしていた。

「“時間”じゃないんだ。もしかして、全部“気持ち”から来てるってこと?」

いつの間にかサンドイッチさえも食べ終わったらしい木ノ下くんが、真剣な顔でメモを見下ろしている。

「それなら、“余裕”って言葉も近い気がする。でも、どこかまだ違う」

「だよね、ちょっと違うよね」

「“余裕ができる”じゃなくて、暮らしが自然に回ってる感じ」


二人とも、ほぼ同時に顔を上げた。

「惜しい」
「あと一歩」

そして、似たようなことを揃って言ってしまって、吹き出す。


私もようやくおにぎりを食べ終えて、野菜ジュースをこくんと飲んだ。

「んー……、なにが違うんだろう」

「ちょっとだけ惜しい」

「余裕のある暮らし……とも違うし」

適当に言っただけの言葉なのに、木ノ下くんが思いのほかすかさず返してきた。

「なんかそれ、老後にぴったりだな」

「ちょっと!笑わせないでよ!」

「老後は大型犬飼いたいもん、俺」

……やばい、話が脱線していく。
頭では分かっているのに、どうしても自然に出てきてしまう。

「木ノ下くんは絶対猫でしょ」

「いや、俺は毎日散歩に行きたいけど」

「そういうの面倒くさがりそうなのに」

「失礼じゃない?」