恋を知らないきみへ

帰ったら夕飯を考えて、買い物をして、キッチンに立って。

そんな当たり前の流れを、ひとつ省けるだけで気持ちがずいぶん軽くなるんだな、って。

……楽しかったはずなのに、疲れも妙に残った土日。


それを思い出して、おにぎりを頬張った。

「家事って、一個減るだけで全然違う。気持ちも、身体も」

「うん」

「"帰ってご飯作らなきゃ"って考えなくていいだけで、人ってこんなに肩の力抜けるんだって思った」

「……なるほど」

木ノ下くんは相槌を打ちながら、走り書きで手元のメモにペンを走らせていた。

「ちょっとした時間なんだけど、その時間をゆっくり話したり、のんびりなにも考えないで過ごせる。そういう余裕こそが、求められてるものなんじゃないかなって」


人混みで買い物して、並んでポップコーンを買って映画を観て、なんとなく疲れたあとの外食。

思い出して、ふっと息をついた。

「木ノ下くんみたいに、実家での“安心感”とは違うかもしれないけど」

「……いや、わりと近くない?」

「え、そう?」

「なんだろう、うまく言えないけど……」

メモを取る手を止めて、ペンを握ったまま木ノ下くんが眉を寄せる。

「俺の場合は母親だからなんとも言えないけど、子供二人に加えて孫も来てるから家事が増えてるのに、めちゃくちゃ生き生きしてた」

「うん、話聞いてるとそうだよね」

「小関さんは、"やらなくていい"っていう安心感を感じたってこと」

「……うん」

「家事が減ることじゃなくて……」

木ノ下くんは少し考えてから、静かに付け加えるようにつぶやいた。

「考えなくていい時間ができるってこと、なのかな」