恋を知らないきみへ

それから彼は、少し申し訳なさそうにまだ話し続けた。

「夕飯は何にする?って聞かれたから“唐揚げ食いたい”って言ったら作ってくれて。……もっと簡単なものをリクエストすればよかったのかなーとか思ったりしたんだよね」

そこまで聞いていて、「ん?」と今度は私が話を止める。

「それは違うと思うよ。お母さんは嬉しかったんじゃない?」

「え?」

「木ノ下くんの食べたいものを聞いてくれたってことは、作りたくて聞いてるんだもん。それに甘えていいんだよ」


私が絶対そう!と言い切ると、木ノ下くんはサンドイッチの袋を開けながら腑に落ちないような曖昧な返事だけした。

「……そんなもんなのかな」

「お母さんのそれは、苦じゃないよ。きっとお母さん、終始楽しそうだったでしょ?」

「まあ、甥っ子もいたし。兄弟がたまたまそろって帰ってきたからか、機嫌はよかった」

「ほらー!」

「父親はずーっと寝てるんだよな」

「それはね、うちもそう。どこも一緒」

顔を見合せて、お互いに笑いがこぼれた。


サンドイッチにかぶりついた彼が、「そっちは?」と視線を送ってきた。

「小関さんは土日、なにしてたの?」

「私はね、普通に出かけたりした。ショッピングモールとか、映画とか」

「……ふーん」

ほんの一瞬だけ、木ノ下くんの手が止まったような気がしたけれど、すぐにまた次のひと口を食べている。

だから気にも留めずに私も続けた。

「でもなんか、仕事のことばっか考えてたから、つい周り見ちゃって」

「あー、分かるよ」

「それでね、買い物した帰りに、“今日は疲れたから外で食べて帰ろう”って話になって。──その時思ったんだよね」