恋を知らないきみへ

私はメモとペンを出してから、おにぎりをひと口食べた。

「土日、どこか出かけたりした?」

「俺は実家に帰ってた」

意外な返答に、思わず食いつく。

「えっ、実家どこ?都内?」

「うん。電車で四十分くらいかな」

「通えるのに一人暮らししてるの?」

「なんかずっと実家にいると、ダメ人間になりそうで」


彼がダメ人間になっている姿はまったく想像できなくて、ふふっと笑いながら「それで?」と続きを促した。

「実家でなんか感じた?」

「うーん……、母親があんまり休めてないな、とは思った」

「え、座る時間がないとか?」

「うん。たまたま兄ちゃんもいて甥っ子連れてきてたっていうのもあるんだろうけど……」

残り少なくなった冷やし中華の麺を箸で集めつつ、木ノ下くんはちょっと首をかしげて考えているような表情を浮かべる。

「うちの母親がさ。洗濯干して、食器洗って、庭の花に水をやって。そのまま甥っ子と庭で遊び始めたんだよね」

「うんうん」

「しゃぼん玉したり、ダンゴムシ見つけたり、水遊びしたり」

「アクティブなお母さんだね」

「孫が可愛いのが一番なんだろうけど、たぶん昼飯食べる時以外は動いてたと思う」