恋を知らないきみへ

「小会議室B、小会議室B……」

無駄につぶやきながら、エレベーターを降りる。


社食を使わないということは、なにかお昼ご飯を持ち込んで食べながら打ち合わせをするということ。

私はコンビニで昼食を買ってきたけれど、木ノ下くんもなにか持ち込んでいるのだろうか?


小会議スペースは半個室で、パーテーションで区切られているだけの簡単な空間だ。
お昼休みだからか、誰も使っていない。

もうすでに座っているらしい木ノ下くんのシルエットだけは見えた。


「お疲れ様」

声をかけたらシルエットが動き、こちらを向くのが分かった。

「あ、お疲れ様」

「木ノ下くん、どうして社食じゃないの?社食愛してるんじゃないの?」

向かいの席に座るなり尋ねると、彼は「そりゃあ社食は愛してるけど」と答える。

コンビニの袋から冷やし中華とサンドイッチとシュークリームが次々に出てくる。

「社食だと小関さんいつも誰かに話しかけられるし」

「い、いや」

「いっそ別の場所で話し合った方が捗るかなって思ったからここにしてみたんだよね」

「木ノ下くん」

「え、なに?」


私の意識は、もはや彼が広げたお昼ご飯に集中してしまっている。

「ずっと思ってたけど、木ノ下くんって細いのにめっちゃ食べるよね!?」

「……こんなもんじゃないの、二十代の食事量なんて」

「ちゃっかりデザートつけてる!甘いの好きなの?」

「べつにいいでしょ。ほら、いいから始めるよ」

シュークリームをちらっと見たら、彼はうざったそうに腕で隠してしまった。