恋を知らないきみへ

「じゃ、小関さん、お疲れ様」

木ノ下くんは食べ終わったフルーツの容器をそばにあったゴミ箱に捨てて、私に軽く手を上げた。

「あ、木ノ下くん!」

私の手の中には、まだ食べかけのフルーツとヨーグルト。

「今日はありがとう。また月曜に!お疲れ様」

小さく手を振ると、彼は一瞥だけして先に行ってしまった。


……相変わらず素っ気ないな。
と思っていたら、後ろから侑樹さんの手が回ってきた。

「遅くまで打ち合わせだったの?」

「うん、ブランドコンセプトが決まらなくて。来週に持ち越しだよ」

「大変そうだなー。……あれ?ほのか、なに食べてるの」

「ん?フルーツ。めっちゃ染みる」


会社の外は、蒸し暑かった。
昼間と気温はそう変わらないんじゃないかと思うほど。


「明日どっか出かけない?」

暑くても、侑樹さんは外に出ると絶対に手を繋ぐか、肩に手を回してくる。

付き合ってから、ずっとそうだった。それが当たり前だった。


彼の誘いに、「うーん」と気のない返事をしながら最後のパイナップルを口に運ぶ。
甘酸っぱくて、すっきりしていた。

「住宅展示場に行きたい」

「───ほのか、マジで仕事脳になっちゃってんじゃん」

呆れたように笑われてしまって、私もほとんど無意識に口にしてしまったことに気づかされる。


慌てて自分の発言をフォローするつもりで首を振った。

「だってコンセプト決まってないから引っかかってて」

「休みの日くらい俺のこと考えてよ」

「考えてるよ」

「ほんとかなぁ?」

「ほんとほんと」

「なら安心」

肩に回された手に、どこか力がこもるのを感じた。


その温もりに身を預けながらも、頭の片隅ではまだ、ホワイトボードに残った『洗濯が一階で終わる』という文字が残っている。

そして、それを見つめながら考え込んでいた木ノ下くんの横顔が消えずにいた。