恋を知らないきみへ

木ノ下くんがふと時計へ目をやる。

「……ちょっと待ってて」

「え?」

「五分だけ。五分で戻る」

それだけ言い残して、珍しく足早に会議室を出ていった。


取り残された私は、なにかあったのか?くらいに思いながら使っていた小会議室を片付けていく。

文字が消されたホワイトボードのキャスターを使って部屋の隅に置いて、イスとテーブルを整える。

自分のパソコンの電源やタブレットの充電を確認し、置きっぱなしになっている木ノ下くんのパソコンも保存してからシャットダウンさせた。


そうこうしているうちに会議室のドアが開いて、木ノ下くんが戻ってきた。

片手にはコンビニの白い袋。

「……え、どうしたの」

思わずそちらを見ると、彼は机の上へ袋を置いた。

「もう腹減って限界で。下のコンビニで買ってきた」


袋の中にはカットフルーツと飲むヨーグルトが二つずつ。
私はきょとんと袋と木ノ下くんを見比べる。

「……なにこれ」

「さっきから腹が鳴ってて、死にそうだった」

あまりにも普通の口調で言われて、思わず笑ってしまった。

彼は自分の分の飲むヨーグルトを取り出し、ストローを差す。それから、もう一つを私の方へ軽く押した。

「あげる。俺だけ飲んだり食べたりするのもあれだし」

「え、でも」

「小関さん、昼は春雨だけだったじゃん」

その一言で、反論が止まる。