恋を知らないきみへ

私も腕を組んで考える。

洗濯が一階で終わる。だから楽。だから時間ができる。
だから───。

「……余裕が生まれる?」

小さく口にしてみる。
木ノ下くんはすぐに首を横に振った。

「近いけど、それも表現としては惜しい」

「違う?」

「違わない。でも、それだけじゃない気がする」


また沈黙が落ちる。

前だったら、この沈黙は苦しかった。
どちらかが焦って話し始めて、結局言い合いになっていた。

でも今は違う。
同じ場所を見ながら、一緒に考えている沈黙だった。


「……今日はだめだな。なんか出ないね」

私が半分諦めて苦笑いすると、木ノ下くんも力が抜けたように小さく笑った。

「……だね。今日は出ない」

そう言ってそっとペンを置いた。

「無理やり決めても、たぶんまた考えた時に“違う”ってなる気がする」


私はホワイトボードをもう一度見つめる。

答えはまだ、見えない。
だけど、不思議と焦りは昨日ほどなかった。


「月曜まで考えようか。それぞれ土日過ごしてみて、なにか思いつくかもしれない」

木ノ下くんがホワイトボードの文字をタブレットで撮影してから、さらさらと消していく。

真っ暗な窓の向こうを眺めて、私もひと息ついた。

「展示場で聞いた言葉、私ももう一回思い返してみる」

そう返事をした時だった。