恋を知らないきみへ

思わず、勢いづいて彼の名前を呼んでしまった。

「な、なに」とわずかに身を引いた彼へ、私は前のめりになりながら笑いかけた。

「私もそれ、すごい刺さってるの!」

「これを軸にするのはありかなとは思う」

「そうしよ!」


すっかり手を止めて話をしていたら、木ノ下くんが思い出したみたいに私のトレイを指さした。

「小関さん……、食べないと」

「……たしかに」

腕時計を見ると、タイムリミットぎりぎり。

「だめだ、お昼休み終わっちゃう」

「夕方にもう一回練り直そう」

時間経過の感覚があっという間すぎて、なにも考えずに口走る。

「ねぇ、まだ話したいよ」


水を飲みかけていた木ノ下くんが、思いっきりむせるのが見えた。

「ちょっと、大丈夫!?」

「小関さんのそういう言い方、慣れない」

「え?どれ?」

「……いや、いい」


意味が分からなくて首をかしげているうちに、昼休み終了を知らせるチャイムが社食に流れた。

「あーっ!」

思わず声を上げる。

「結局、全然話し足りなかった……」


木ノ下くんはノートパソコンを閉じながら、小さく笑う。

「だから、また夕方」

「……うん」

私は慌てて残っていたスープを飲み干した。

“まだ話し足りない”。
そう思ったのは、ブランドコンセプトのことなのか。
それとも───。


考える暇もなく、昼休みは終わってしまった。




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