恋を知らないきみへ

しばらく黙り込んでいた木ノ下くんが、おもむろにパソコンの画面を私に見せてきた。
ずらっと並んでいるのは、私が展示場で聞いてきた意見。

身を乗り出して、私はうなずいて見せる。

「そうそう、これ!」

「小関さん。これ全部?」

「全部伝えたい!だってお客様によって一組ずつ響いたポイントが違うんだもん」

「生活動線。共働き。育児。家事。趣味。全部伝えたいのは分かる。分かるけど──全部言うと、逆に何も残らなくなる」

「インパクトの問題?」

「そうじゃなくて、人間の心理として。たくさんあると、その分どうしても散っちゃうでしょ」


彼が言いたいことと私が言いたいこと、どちらもちゃんと正しい。正しいからこそ、折り合いがつかない。

これが営業とマーケの違いだ。


スープをひと口飲んで、いったん気持ちを落ち着かせてから木ノ下くんに向き合う。

「じゃあさ、木ノ下くんが一番刺さったのって、なに?」

「それは……まだ分かんないけど」

「分かんないの?」

「チッ、こんなにあるんだから無理だよ」

「ナチュラルに舌打ちした!」