触れられなくても、君がいい。

 ◇

 週が明けた。
 平日にもかかわらず、有り難いことにたくさんのお客様を迎えている。

 忙しいチェックインの時間帯を終えた。
 休憩を取るため、共にホテルを経営している弟にフロントを任せて自室へ戻ると、扉が薄っすら開いていた。

 中から、小さな気配がする。

「……七海(ななみ)?」

 声をかけると、小さな背中がピクッと跳ね、こちらを振り向いた。

「みつかったあ」

 えへへ、と笑って誤魔化そうとしている。
 その両手に抱えられているのは、少し錆びたお菓子の缶ケースと、そこから溢れ出る色とりどりの便箋だった。

 初めての小学校の夏休み。開始一週間も経たずに暇を持て余した彼女は、こうして頻繁に忍び込んでは、俺の部屋を物色している。

「ダメって、言っただろ」

 ひょいっと缶ケースを取り上げる。

「えーっ。かわいいおてがみ、よみたいのにー」

 不満げに唇を尖らせる七海を横目に、床に落ちていた蓋を拾い上げ、大切に閉めた。


「ねえ。それ、ママがかいたやつ?」


 無邪気な問いかけ。
 俺は手元の缶へ視線を落とし、静かに答えた。


「……違うよ」


 七海の手の届かない高さの棚に、コトッと音を立てて置いた。