触れられなくても、君がいい。

 ◇

 ――中学二年の、初夏。

 悠也に手紙を見られた日。

 この部屋で、遊びにきていた悠也と漫画を読みながら駄弁っていた。
 そこへ、東京から届いたばかりの手紙を、弟が持ってきた。

 一目で女子からのものとわかる、ブルーとイエローの花が散りばめられた夏柄の封筒。

 目を輝かせて奪い取ろうとしてくる悠也を片手で制し、はやる気持ちを抑えながら慎重に封を切った。

 折りたたまれた便箋を開くと。
 丸みを帯びた見慣れた文字で、こう書かれていた。


 ――――――――

 航へ

 今年も、航の家のホテルに行けることになったよ。
 また、私の誕生日祝いで。

 航も祝ってよね。


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 まだ蝉が鳴り始める前。
 湿気を帯びた風が、窓の隙間から吹き込む。

 横で『誰!?』と騒ぎ立て、からかってくる悠也の声など、耳に入ってこなかった。
 花柄の便箋を見つめる耳の奥で、驚くほど速まっていく鼓動の音だけが、うるさいくらいに鳴り響いていた。

 その手紙を、悠也の目から隠すように、缶ケースへと大切に仕舞ったのだった。