触れられなくても、君がいい。


「いーえ。で、当日は何かすんの?」

「仕事だから、特には」

 そっけなく言い放つと、「あらあら」と大袈裟に目を丸くされた。

 そして、本棚の上を指差した悠也が、言った。


「ていうか、お前。いまだにあれ見てんの?」


 視線の先にあるのは――最上段の一角に置かれた、錆びたお菓子の缶ケース。
 蓋が、少し開いていたのだ。


「…………」

 やはり、見られていた。

 悠也には過去に一度だけ、夏帆からの手紙とあの缶ケースを見られたことがある。
 忘れていることを願っていたが、こいつはこういう余計なことばかり、鮮明に記憶しているのだ。

「……言うなよ」

「へいへい」

 俺の静かな肯定を聞いた悠也は、「女々しい奴っ」とさぞ愉快そうに吹き出した。